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年金基金が「ヘッジファンド」への投資額を増やした理由

f:id:tenshoku66:20230518204057j:image絶対リターンを志向してヘッジファンド投資を本格化

わが国において、オルタナティブ投資が本格的に利用され始めたのは2001年以降である。それまでは、大手銀行や総合商社・一部ノンバンクが1990年代に自己勘定投資の一環として手がけてはいたものの、1998年のLTCM破綻で一時的に手控えられた。
しかし、資金需要の低迷による貸出業務の不振と低金利環境に悩む保険会社・地方銀行などの金融機関が、絶対リターンを志向してヘッジファンド投資を本格化した。
 金融機関のALM上、貸出需要が落ち込む景気低迷期に収益をカバーするのは通常は債券だが、ゼロ金利時代突入によって債券運用利回りも大きく低下したことから、代替的な収益源を持つことが課題となったのである。
多くの金融機関は仕組債や証券化商品などとともに、絶対リターン型運用の外部委託としてヘッジファンド(とくにファンド・オブ・ファンズ)にも向かったのである。

2000年から3年間連続して日本株が大幅なマイナスリターンを計上するにおよび、2003年以降、βを抑制する狙いからヘッジファンド投資を採用する年金基金が急増した2000年以降導入された退職給付年金会計と時価会計の影響から、代行返上基金の解散、キャッシュバランスプランへの移行などが相次ぎ、年金基金の契約資産が減少する中で、オルタナティブ投資は例外的に配分額が増加した資産クラスとなった。
年金基金にとって最大のニーズは、ポートフォリオの分散効果によるリスク・リターンの改善である。したがって、ヘッジファンドをリスク性の高い資産と認識して高リターンを狙って投資するのではなく、他の伝統的資産にヘッジファンドをミックスすることによってポートフォリオとしてのリスク軽減を図ることが主たる目的であった。
 しかし、急増したタイミングからみても明らかなように、金融機関同様に絶対リターンを志向する資産クラスである点が、株式市場の下落リスクに悩まされてきた年金基金にとっても重要なポイントであったことは明らかである。
1990年代に一世を風靡したリスク・リターンの最適化手法によるアセット・アロケーションは、純粋に市場リスク(β)に依存するインデックス運用・パッシブ運用の急成長を促したが、2000年のITバブル崩壊を機に、ディスインフレ環境で有効なリターンを創出できないことが明らかになった結果、絶対リターン型戦略へのシフトが本格化したのである。
こうした背景もあり、わが国機関投資家の場合、オルタナティブ投資におけるヘッジファンドの比重が高いことが大きな特徴である。
しかし、2006年頃から、バーゼルⅡなどの影響もあって、地域金融機関はヘッジファンド投資を縮小する。その傍ら、ヘッジファンド投資を積極的に積み増したのが年金基金だったが、2007〜2008年の金融危機を機に、従来のファンド・オブ・ファンズ投資からシングルファンド投資に向かっているとみられる。【図表1】にみるとおり、国内年金基金ヘッジファンドへの期待はいまも非常に大きい。f:id:tenshoku66:20230518204216j:image

【図表1】年金基金オルタナティブ商品について
実物資産投資の一環であるREITやいわゆる仕組商品・証券化商品などと異なり、ヘッジファンド投資は運用の外部委託である。ヘッジファンド金融商品と考えるのは適切でない。
CDOや仕組債などをオルタナティブと呼ぶのを耳にすることがあるが、これらは満期のある単品の金融商品である。ヘッジファンドに代表されるオルタナティブ投資の本質を理解するうえで、この相違は非常に重要であることを指摘しておく。

アジア圏のヘッジファンドの成長ポテンシャルは高い

この市場をカバーするデータベースを運営しているシンガポールのEureka Hedgeの推計によると、2012年時点で確認できるアジアのヘッジファンドの数は1300あまり、運用資産規模は1250億ドル程度である。
2000年から2007年の間にファンド数、運用資産ともに約10倍となる急激な成長を遂げたが、2008年以降は頭打ちで運用資産も金融危機前のピーク時を上回ることができていない。
アジア圏では、新興国を中心に市場の整備が進んでおり取引対象となる資産が増えていることや、同様の運用戦略を採るマネジャーの数が欧米と比較して少ないこともあり、引き続き新たなヘッジファンドの設立は多いが、一方で主に資金不足を理由として運用を停止するファンドの数も金融危機以降高止まりしている。
この地域のヘッジファンドの4割強は資産規模2000万ドル未満の小規模なもので、ごく一部の投資家の動きに影響を受けてファンドを清算しなければならなくなることも多い。
とはいえ、アジア圏の市場時価総額がグローバル市場の15~20%を占めているのに対し、ヘッジファンドの資産規模は全体の10%以下に過ぎないことを考えると、アジア圏のヘッジファンドの成長ポテンシャルは非常に高いといえよう。
投資戦略の面では、市場の発展に歩を合わせる形で多様化が進んでいる。2005年時点ではアジア圏のヘッジファンド資産の約3分の2が株式ロング・ショート戦略に投じられていたが、現在ではその比率は約3分の1まで低下しておりイベント・ドリブンやマルチ戦略が比率を高めている。
これには、市場の整備により多様な運用戦略を実行する環境が整ったことに加え、金融危機後、金融機関のプロップ・デスクで経験を積みヘッジファンドへ転じたマネジャーが先進的な運用手法を持ち込んだことも大きく影響している。
マネジャーの地理的な分散状況をみると、以前はアジア市場にエクスポージャーを有するファンドでも、主たる拠点を欧米に置くものが多かったが、近年は香港やシンガポールを中心にアジア地域をベースにしてアジアの資産を運用するマネジャーが増えている(【図表2】)。f:id:tenshoku66:20230518204228j:image

【図表2】ビークルと投資マネジャーの所在地
プライム・ブローカーなどのサービス・プロバイダーもアジアでの業務に力を入れており、ヘッジファンド運用に対するサポート体制も欧米の水準に近づきつつある。一方、日本株ロング・ショート戦略以外のマネジャーで、日本を拠点に選ぶケースは稀である。