アセマネ業界研究📊

アセットマネジメント業界についての情報を発信します。

信託銀行、運用会社、ヘッジファンドにおける運用スタイルの違い

f:id:tenshoku66:20230507211145j:imageプロの投資家としての資産運用会社の役割

資産運用会社またはアセットマネジメント会社とは、プロの投資家として人びとからお金を預かって投資を行っている会社です。

日本国内では投資家というと個人投資家を思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし、実際に運用されている資産の大部分は「機関投資家」と呼ばれる資産運用会社が保有しています。

資産運用会社というプロの投資家はおおまかに「資金を適切に分配する役割を」と「市場に資金を供給する役割」の2点を果たしています。
それぞれ確認していきましょう。

資金を適切に分配する役割

「事業を見る目」を持ったプロの投資家の存在は、適切に資金を循環させて経済を発展させるために欠かせない存在です。

最先端のビジネスを行っている会社や専門的な事業内容の会社の場合は、優れたビジネスを行っていたとしても個人投資家からは良さを分かってもらえないかもしれません。

優れた事業と優秀な従業員を持つ会社が資金不足のために事業を行えないとしたら、それは社会全体にとって非常に惜しいことです。

一方で、資産運用会社は専門的な事業調査を行えるアナリストを擁していますから、難解なビジネスを行っている会社であっても優れた事業であれば資金を供給することができます。

直接金融を支援する投資銀行が株式や債券を引き受けることができるのも、合理的に投資をおこなうプロの投資家がいてこそだといえます。

市場に資金を供給する役割

資産運用会社には投資の意思決定ができないために投資を行えていない人たちに対して、投資の代行を行う役割もあります。

投資することは容易なことではありません。専門的で事業内容がわからないという状況でなくとも、投資先や投資額を決めてスムーズに投資をできる投資家は限られているでしょう。

この役割を担う会社があることによって、投資をためらっていた人びとの余剰資金が市場に流入して、より一層活発に企業活動が行われるようになるのです。

運用スタイルの違い

f:id:tenshoku66:20230507211205j:image資産運用会社にはさまざまあります。

三井住友信託銀行三菱UFJ信託銀行みずほ信託銀行SMBC信託銀行などの信託銀行も広義の意味で資産運用会社です。

野村アセットマネジメント、アセットマネジメントONE、大和投資信託外資系ではブラックロック、フィデリティ、JPモルガンアセットマネジメントなどの狭義の資産運用会社とは異なる点が理解されていないことが多くあります。

運用業務自体で資産運用会社の運用部門と信託銀行の運用部門では違いがあります。

資産運用会社の運用部門

リスクをとって収益を目指す個人投資家の資産を運用したり、年金基金などのポートフォリオの中でも多少リスクの高い資産を扱ったりします。このため、資産運用会社は信託銀行と比べるとリスクの高い運用となります。ロングショート戦略などのヘッジファンドではさらにリスクの高い運用を行っています。資産運用会社のファンドオブファンズなどのうちリスクの高い部分を占めています。

信託銀行の運用部門

主要な顧客は年金基金などの長期安定運用を目指すのが主体です。社会人になってから年金を受け取るようになるまでに40年~50年かかりますから、年金基金は40年~50年といった期間で運用益を最大化しようとします。

したがって信託銀行の運用スタイルもバイアンドホールドに近い状態となるため、リスクを抑えた運用が中心となります。

また、信託銀行は資産運用業務だけでなく、実際にお金を保管する信託業務や通常の銀行と同じような融資事業やカード事業も行っています。それに加えて、日本の大手信託銀行は人事異動があり、運用業務と銀行業務の間での異動のような事実上の転職を経験することもあるかもしれません。

・信託銀行は比較的のんびり穏やか

社風は運用スタイルにも影響を受け、リスクをとった運用を求められるほど会社自体もリスクを好む社風になります。

ハイリスクハイリターンを目指すヘッジファンドなどでは運用者自身もリスクをとって稼ぎたいと考える人たちが多くいますし、安定運用を心がける信託銀行や生命保険会社などは安定志向の運用者が多くなります。

両者の中間に位置するといえる資産運用会社のあるファンドマネージャーは「ヘッジファンドはアグレッシブな人が多くて、信託銀行はのんびりとした穏やかな人が多い。資産運用会社はその中間かな。」とおっしゃっていました。(一方、近年は業界的に信託銀行も忙しくなっているという話もあります。)

自分の価値観にあった仕事を選ぼうとすると必然的にこのような差がつくのです。
新卒で入社できるバイサイドには、狭義の資産運用会社のほかにも信託銀行や保険会社があります。

仕事の内容自体は変わらなくても運用スタイルや社風などは異なりますから、自分に合った環境をこころざすとよいのかもしれません。
また、将来的にヘッジファンドで働きたいと考えている場合は、信託銀行や保険会社はヘッジファンドとはかなり異なった運用スタイルであることを念頭におくとよいかもしれません。

ヘッジファンド

資産運用会社の中には、高いリスクをとって機動的に運用する「ヘッジファンド」と呼ばれる機関投資家が存在します。

ヘッジファンドはほかの資産運用会社と比べて売買の間隔が短く、株式や債券を短期間で売買する傾向があります。30年かけて運用する年金基金などと比べると、ヘッジファンドは極めて簡単に投資先を変更することができるといえます。

ヘッジファンドの顧客とリスク

株式や債券を長期保有する狭義の資産運用会社には個人投資家や年金基金もお金を預けていますが、ヘッジファンドの顧客は原則としてプロの投資家です。

同業であるプロの投資家を顧客として資産を運用するファンドということになります。

狭義の資産運用会社は、投資のリスクなどを十分に把握できていない可能性のある個人投資家も対象としているため、過度なリスクをとった運用を行わないように法律で規制を受けています。

金融に関する知識の乏しい個人投資家に対しては、リスクについて説明したからと言ってリスクについて理解してもらえるとはかぎりません。そういった投資家が、本来許容できる以上のリスクをとってしまわないように規制があります。

一方、投資のリスクを十分に把握しているプロの投資家を相手にするヘッジファンドにはそのような規制は課されていません。このため、狭義の資産運用会社と比べて、ヘッジファンドはハイリスク・ハイリターンな投資を行うことができるのです。

空売りという取引方法

銀行が現金の貸し出しを行っているのはご存知だと思いますが、証券会社は株式を貸し出しています。

株式の返却の満期は半年です。ただし、満期前であればいつ返済しても構いません。株式の貸し出しは、現金の貸し出しと比べると満期が短いものの、利子を支払えば借りることができるという点では借金によく似ています。

借りた株式の売買をすることを「信用売買」といい、信用売のことを俗に「空売り」と呼びます。

短期間しか保有しないことから、空売りは「ショート」とも呼ばれます。株式を購入することは「ロング」といいます。

また、空売りしている状態のことをショートポジション、株式を購入して保有している状態のことをロングポジションといいます。

また、返済は現金ではなく株式で行い、借りたものと同じ会社の株式を借りた株式数だけ返却します。

株式を借りてすぐに売却し、半年後に買いなおしてから返却する場合を考えてみましょう。

借りた時点での株価が100円で返す時点での株価が110円だったとすると、売却時に得たお金が100円で返却時に購入した代金が110円ですから10円の損失となります。

一方で、借りた時点での株価が100円で返す時点での株価が90円だったとすると、100円で売却したものをあとから90円で買いなおしたことになるので10円の利益になります。

これが、空売りによる「株価が下がると儲かる」という仕組みです。f:id:tenshoku66:20230507211232j:image

空売りはなぜハイリスクなのか

株式会社は有限責任です。有限責任での投資は最悪のケースでも株価がゼロになるだけであるため、事業に失敗しても破産することはないということを含意していました。

株式投資においても同じで、通常の売買では最悪のケースでも株価分の損失しか発生しません。

しかし、空売りしたときに100円だった株価が、返却時に300円まで上昇していたらどうでしょうか。このときの損失は1株あたり200円になりますが、これは空売りした当初の株価である100円よりも大きな損失になっています。

株価には上限がありませんから、空売りによる損失にも上限がないことになるのです。これが空売りがハイリスクであるゆえんです。

ヘッジファンドによるゆがみの是正

ヘッジファンドは、空売りを利用した運用を行うことで、株式市場が上昇傾向にあっても下落傾向にあっても資産を増やすことができます。

資産運用会社は空売りの規制を受けているため、上昇相場でしか資産を増やせません。

このような運用方針は一見するとただのギャンブルのように見えるかもしれません。

しかしながら、市場で過小評価されている会社の株式を機動的に購入し、過大評価されている会社を積極的に空売りするヘッジファンドが存在しなければ、会社が正当に評価されていない状況が放任されてしまうかもしれないのです。

会社が市場から正当に評価されない状態では、魅力的な事業をもつ会社に十分な資金が供給されなくなるだけでなく、魅力的な事業でなくても資金調達を行えてしまいます。そのような状況が続けば、事業を成功させるために尽力するという企業努力のモチベーションが損なわれてしまう可能性もあります。


おわりに

金融業界がどのような役割を果たしてきたのかについて、少し理解が深まったことだと思います。

この講義を執筆している私の周りにも、ヘッジファンドを含む資産運用会社がどのような役割を果たしているのかを理解しないまま、株式や債券にかかわる仕事をしたいと言っている学生は多くおりました。

そのような状態では、選考で最もよく聞かれる「なぜ弊社を志望しているのですか?」という質問にすら答えられません。

金融業界について学び、金融機関の業務を理解して真摯な関心を持つことは、とても本質的な選考対策です。

毎年改定されるWebテストの回答を入手してカンニングするのとは違って、本質的な対策はそう簡単に陳腐化しません。

ここまでの講義にきちんと取り組んだみなさんは、すでに周囲の就活生に大きな差をつけている側の人間です。

小手先のテクニックばかり紹介する就活メディアに惑わされることなく、引き続き腰を据えて対策をしていきましょう。