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年金基金が「ヘッジファンド」への投資額を増やした理由

f:id:tenshoku66:20230518204057j:image絶対リターンを志向してヘッジファンド投資を本格化

わが国において、オルタナティブ投資が本格的に利用され始めたのは2001年以降である。それまでは、大手銀行や総合商社・一部ノンバンクが1990年代に自己勘定投資の一環として手がけてはいたものの、1998年のLTCM破綻で一時的に手控えられた。
しかし、資金需要の低迷による貸出業務の不振と低金利環境に悩む保険会社・地方銀行などの金融機関が、絶対リターンを志向してヘッジファンド投資を本格化した。
 金融機関のALM上、貸出需要が落ち込む景気低迷期に収益をカバーするのは通常は債券だが、ゼロ金利時代突入によって債券運用利回りも大きく低下したことから、代替的な収益源を持つことが課題となったのである。
多くの金融機関は仕組債や証券化商品などとともに、絶対リターン型運用の外部委託としてヘッジファンド(とくにファンド・オブ・ファンズ)にも向かったのである。

2000年から3年間連続して日本株が大幅なマイナスリターンを計上するにおよび、2003年以降、βを抑制する狙いからヘッジファンド投資を採用する年金基金が急増した2000年以降導入された退職給付年金会計と時価会計の影響から、代行返上基金の解散、キャッシュバランスプランへの移行などが相次ぎ、年金基金の契約資産が減少する中で、オルタナティブ投資は例外的に配分額が増加した資産クラスとなった。
年金基金にとって最大のニーズは、ポートフォリオの分散効果によるリスク・リターンの改善である。したがって、ヘッジファンドをリスク性の高い資産と認識して高リターンを狙って投資するのではなく、他の伝統的資産にヘッジファンドをミックスすることによってポートフォリオとしてのリスク軽減を図ることが主たる目的であった。
 しかし、急増したタイミングからみても明らかなように、金融機関同様に絶対リターンを志向する資産クラスである点が、株式市場の下落リスクに悩まされてきた年金基金にとっても重要なポイントであったことは明らかである。
1990年代に一世を風靡したリスク・リターンの最適化手法によるアセット・アロケーションは、純粋に市場リスク(β)に依存するインデックス運用・パッシブ運用の急成長を促したが、2000年のITバブル崩壊を機に、ディスインフレ環境で有効なリターンを創出できないことが明らかになった結果、絶対リターン型戦略へのシフトが本格化したのである。
こうした背景もあり、わが国機関投資家の場合、オルタナティブ投資におけるヘッジファンドの比重が高いことが大きな特徴である。
しかし、2006年頃から、バーゼルⅡなどの影響もあって、地域金融機関はヘッジファンド投資を縮小する。その傍ら、ヘッジファンド投資を積極的に積み増したのが年金基金だったが、2007〜2008年の金融危機を機に、従来のファンド・オブ・ファンズ投資からシングルファンド投資に向かっているとみられる。【図表1】にみるとおり、国内年金基金ヘッジファンドへの期待はいまも非常に大きい。f:id:tenshoku66:20230518204216j:image

【図表1】年金基金オルタナティブ商品について
実物資産投資の一環であるREITやいわゆる仕組商品・証券化商品などと異なり、ヘッジファンド投資は運用の外部委託である。ヘッジファンド金融商品と考えるのは適切でない。
CDOや仕組債などをオルタナティブと呼ぶのを耳にすることがあるが、これらは満期のある単品の金融商品である。ヘッジファンドに代表されるオルタナティブ投資の本質を理解するうえで、この相違は非常に重要であることを指摘しておく。

アジア圏のヘッジファンドの成長ポテンシャルは高い

この市場をカバーするデータベースを運営しているシンガポールのEureka Hedgeの推計によると、2012年時点で確認できるアジアのヘッジファンドの数は1300あまり、運用資産規模は1250億ドル程度である。
2000年から2007年の間にファンド数、運用資産ともに約10倍となる急激な成長を遂げたが、2008年以降は頭打ちで運用資産も金融危機前のピーク時を上回ることができていない。
アジア圏では、新興国を中心に市場の整備が進んでおり取引対象となる資産が増えていることや、同様の運用戦略を採るマネジャーの数が欧米と比較して少ないこともあり、引き続き新たなヘッジファンドの設立は多いが、一方で主に資金不足を理由として運用を停止するファンドの数も金融危機以降高止まりしている。
この地域のヘッジファンドの4割強は資産規模2000万ドル未満の小規模なもので、ごく一部の投資家の動きに影響を受けてファンドを清算しなければならなくなることも多い。
とはいえ、アジア圏の市場時価総額がグローバル市場の15~20%を占めているのに対し、ヘッジファンドの資産規模は全体の10%以下に過ぎないことを考えると、アジア圏のヘッジファンドの成長ポテンシャルは非常に高いといえよう。
投資戦略の面では、市場の発展に歩を合わせる形で多様化が進んでいる。2005年時点ではアジア圏のヘッジファンド資産の約3分の2が株式ロング・ショート戦略に投じられていたが、現在ではその比率は約3分の1まで低下しておりイベント・ドリブンやマルチ戦略が比率を高めている。
これには、市場の整備により多様な運用戦略を実行する環境が整ったことに加え、金融危機後、金融機関のプロップ・デスクで経験を積みヘッジファンドへ転じたマネジャーが先進的な運用手法を持ち込んだことも大きく影響している。
マネジャーの地理的な分散状況をみると、以前はアジア市場にエクスポージャーを有するファンドでも、主たる拠点を欧米に置くものが多かったが、近年は香港やシンガポールを中心にアジア地域をベースにしてアジアの資産を運用するマネジャーが増えている(【図表2】)。f:id:tenshoku66:20230518204228j:image

【図表2】ビークルと投資マネジャーの所在地
プライム・ブローカーなどのサービス・プロバイダーもアジアでの業務に力を入れており、ヘッジファンド運用に対するサポート体制も欧米の水準に近づきつつある。一方、日本株ロング・ショート戦略以外のマネジャーで、日本を拠点に選ぶケースは稀である。

日本のヘッジファンドはなぜ存在感に乏しいのか

ヘッジファンド」とは、様々な運用手法を駆使して、相場の上げ下げに関係なく「絶対リターン」を追求するファンドのことです。f:id:tenshoku66:20230518203929j:image

和製ヘッジファンドのアジアでの地位が低下している

運用者としての日本のヘッジファンド業界は残念ながらグローバルな存在感に乏しい。ヘッジファンドへの投資家としてのジャパン・マネーの存在感とは比較にならない。
短い歴史を振り返ると、2000年代前半のヘッジファンドの機関化初期、日本のヘッジファンドは指で数えられるほどごく少数だったが、日本株相場が底打ちした2003年から2006年にかけて、日本株ロング・ショート・ファンドが続々と誕生し、和製ヘッジファンドと呼ばれるようになった。
CBアーブの低迷など欧米ヘッジファンドの運用キャパシティが懸念され始めたこともあり、ヘッジファンド業界の新たなフロンティアとして日本が期待を集めた。和製ヘッジファンドのいくつかはFOFなど海外投資家からの資金配分を原動力に急成長したのである。
戦略的にはファンダメンタルな銘柄選択を行うオーソドックスなロング・ショート戦略やイベント・ドリブン系がほとんどで、結果的に“中小型株ロング・大型株あるいはインデックス・ショート”というエクスポージャーを有していた。
ところが、2006年のいわゆるライブドア・ショックを契機に多くのファンドのパフォーマンスが悪化した。アジア圏の台頭はめざましく、世界の投資家は日本をパスしてアジアexジャパン(日本を除くアジア)に向かった。アジアのヘッジファンド業界を草創期から支えてきた有力プライム・ブローカーは、毎年秋に東京で大規模なキャップ・イントロのイベントを開催してきたが、2012年からついに会場をシンガポールに移している。
しかしながら、リーマン危機後、新たな胎動もある。金融危機後に縮小・撤退したプロップ・デスクで経験を積んだ“第三世代”と呼ばれる新興運用者である。
大手投資銀行などのプロップ・デスクに勤務してきた人材には公式のトラックレコードはない。だが、そうしたポジションで長期間にわたって資本を与えられてトレードを続け、キャリアアップしてきたという経歴が実績を物語る。その多くは、クオンツとしての高い素養を持ち、なおかつトレーディング能力に優れ、パフォーマンスに厳しいという点で、従来の典型的なストック・ピッカーとは異質だ。
大手投資銀行のトレーディング・フロアとはまったく異なる環境で運用を行うため、かつて成功してきた手法が必ずしも成果を生まない可能性もあるが、こうした若い世代から、グローバルに活躍する人材が台頭してくることが、これからの日本のヘッジファンド盛衰のカギを握っているといっても過言ではないだろう。

日本の運用会社は、「金融機関の子会社」が多い

年金基金などわが国機関投資家の間でも、ヘッジファンドを中心としたオルタナティブ投資が着実に浸透してきた。しかし、相変わらず国内の販売会社・運用会社が持ち込んでくる国外マネジャーへの運用委託が一般的であり、国内の潤沢な待機資金のためにさまざまなファンドが輸入されているのが実態だ。
専門性の高いオルタナティブ投資は、金融商品というよりも運用のアウトソーシングであり、なおかつマネジャーに成功報酬が支払われる点に特徴がある。マネジャーが顧客である投資家に対して絶対リターンを提供したときにはじめてマネジャーも成功報酬を獲得することから、運用規模拡大に対する経営インセンティブが働きがちな伝統的投資と比べて、投資家利益とマネジャーの利益が合致する優れた仕組みである。
だが、輸入中心の日本のマクロ・ポジションをよくよくみると、グローバル市場に対する最大規模の流動性供給者・リスク負担者となっていると考えられる。
日本からの資金を運用する海外のヘッジファンド・マネジャーたちは本邦投資家のリスクテイクのおかげで、成功報酬を目指した運用をすることができる。運用リターンに対するポジションとしては、マネジャーはコール・オプションをロングし、投資家はそれをショートしている(しかもプレミアムなしに)に等しい。
さらに、ヘッジファンド投資家が負担する運用報酬以外の経費の受け手となるサービス提供者はすべからく海外のプレイヤーであるし、それらの収益に対して日本国政府は課税できない。
わが国は、世界最大規模の債権国として、グローバル市場にリスク資本を供給する立場にある。資本をグローバルに投資して、良質な対外資産を運用しながら国内経済に還元することはわが国の将来にとって不可欠の課題である。
ことあるごとに金融再生が叫ばれるものの、議論の主役は相変わらず銀行・保険・証券であり、資産運用業は置き去りの感が否めない。そもそも日本の大手資産運用会社は、外資系を除けば銀行・保険・証券の子会社であり、運用リターンにこだわる企業文化を確立しているとは言い難い。
資産運用産業は、過去のストックが積みあがった成熟経済の金融インフラとしては重要であり、金融規制が間接金融機関によるリスク・マネー供給機能を制約する環境ではなおさらである。
ヘッジファンドをはじめとする専門的な資産運用事業を育てていくためには、グローバルな枠組みと整合性のとれた規制・税制などの事業環境整備が大切であることは論をまたない。結果が数字で明確に出る資産運用業はグローバルな競争力がないと勝負にならないのは明らかである。しかし、それは野球にたとえるなら、いいプレー・いい試合をするためにルール・ブックとグラウンドの整備が必要という類の議論である。
わが国資産運用業界をより活性化させて、国際競争力を向上させるための主役はあくまでも運用会社と投資家であることを強調しておきたい。いかにすばらしい環境が用意されても、そこでプレーするのは運用会社と投資家なのである。
運用会社がグローバル基準で遜色ない運用サービスを提供するために一層の努力を続ける必要があることはいうまでもない。しかも、出遅れを取り戻すためにはそれだけでは足りず、将来を見通して近道を選んでいくようなセンスというか“something”が必要だ。そして、そうした胎動を結実させるためには、わが国投資家による意識改革と、各自の判断に自信と責任を持った行動こそが、どうしても必要だと思う。
米国の大学財団は資産の大半をオルタナティブに配分しているが、投資先マネジャーとの取引期間は長い。あるトップクラスの財団は平均投資期間が17年だという。顔が見えて、意思疎通が十分にはかれるのだろう。
長く深い信頼関係に裏打ちされたプロフェッショナルな対話は、双方にとって、運用パフォーマンスだけでなく、さまざまな副次的効果をもたらすことだろう。マネジャー・スキルに依存するオルタナティブ投資は、巷にあふれる“旬の金融商品”ではない。
終わることのないマーケットとの勝負に一緒に臨むパートナーなのである。
 

「ファンド・オブ・ファンズ」のメリット、デメリット

「ファンド・オブ・ファンズ」とは、複数の投資信託をパッケージにした投資信託のことで、1つのファンドに投資することで実質的に複数の投資信託分散投資できます。f:id:tenshoku66:20230517204336j:image

「ファンド・オブ・ファンズ」の長所4つ

①分散効果

ファンド・オブ・ファンズの長所のひとつは、ポートフォリオを多様化することによる分散効果の獲得である。
 分散効果とは、リスク調整後リターンの向上であり、運用効率の改善である。市場環境に左右されない絶対リターンを求めるヘッジファンドも、常に狙い通りの成果を享受し続けることは容易ではない。従来型の伝統的投資スタイル同様に、スタイル分散・投資対象分散は、ヘッジファンド投資においても有効である。

②投資プロセスのアウトソース

第2の長所は、単独では容易でないシングル・ファンドの選定、デュー・デリジェンスポートフォリオの構築、投資後のモニタリングという一連のヘッジファンド投資プロセスを、投資家が一定のコストを払って、専門家にアウトソースできることにある。
 投資家のために、数多くのシングル・ヘッジファンドのユニバースからヘッジファンドによるポートフォリオを構築し、運用モニタリングを行う専門家をゲートキーパー※と総称する。日本では、ファンド・オブ・ファンズ・マネジャーをゲートキーパーと呼ぶこともある。
 ※ヘッジファンド投資を行う投資家のために、個別ファンドを評価し、ポートフォリオ組成を行う専門家。

③優良ファンドの投資枠確保

第3の長所は、キャパシティの制約から“一見の投資家”による資金投資を制限している、クローズ済の優良マネジャーに対する投資枠を確保できることがある点である。有力ファンド・オブ・ファンズ・マネジャーは、その多年にわたる投資家としてのリレーションシップにより優良マネジャーからも一目置かれる場合が少なくない。
 そのようなヘッジファンド業界の至宝ともいえる一部のマネジャーに、いきなりアプローチしても門戸は開放されないのだが、ファンド・オブ・ファンズというビークルを通すことによって、アロケートする道が拓かれる場合もある。ファンド・オブ・ファンズ・マネジャーが、どの程度クローズ済ファンドをポートフォリオに入れているかということも、ひとつの評価基準である。

④小口でも分散効果

第4の長所は、小口資金でも分散効果が得られることである。最低投資金額の大きなヘッジファンドで最適ポートフォリオを構築するには大きな資金が必要だが、ファンド・オブ・ファンズを利用すればその問題は解決できる

「ファンド・オブ・ファンズ」の短所3つ

①透明性

ファンド・オブ・ファンズの短所は、第1に透明性である。数々のヘッジファンド破綻や、機関投資家の本格参入を機に、ヘッジファンド・マネジャーの投資家向け情報開示姿勢は急速に改善してきたが、運用の性格も影響して、必ずしも十分とはいえない。
投資戦略によっては、
①マーケット・インパクトを通じたパフォーマンス悪化を懸念して情報開示を躊躇するケース
②際限ない情報開示要求がインフラ整備を通じたコスト増加とパフォーマンス悪化につながると懸念するケース
 が多い。従来の、説明責任よりも結果責任というマネジャーの意識はずいぶん改善されてきたが、それでも優良マネジャーをめぐる投資家やファンド・オブ・ファンズ・マネジャーの争奪戦は激化しており、自信のあるマネジャーほど売り手市場である。
 しかし、ファンド・オブ・ファンズの中には、シングル・マネジャーとの格別な関係を背景に、突っ込んだ情報開示を受け、投資家に対しても一定の条件の下でその情報を開示する場合もある。

流動性

第2の短所は、流動性である。ファンド・オブ・ファンズの投資先であるシングル・ファンド以上の解約条件を得ることはそもそも不可能であることを思えば、流動性の不足は容易に類推できるだろう。
 さらに言えば、優良なシングル・ファンドほど流動性が厳しくなる傾向にあるため、期待リターンを高める努力と流動性改善の努力は、えてして相反する傾向にある。
 流動性(解約条件)を優先してファンド・オブ・ファンズを選別投資した結果、本来期待したリターンを得ることができなかったという本末転倒のケースが、特に流動性を重視するわが国金融機関の間で過去に散見された。
 かつて、シングル・マネジャーと密接な関係を有するファンド・オブ・ファンズ・マネジャーの中には、サイドレターなどで優遇条件を得ているケースもあったが、公平性の確保という観点では、マネージド・アカウント等を利用する仕組みをとらない限り困難である。

③コスト

第3の短所は、コストである。シングル・ファンドで管理報酬と成功報酬が課された上に、2階に当たるファンド・オブ・ファンズでも別途運用報酬が徴求されるからである。
 したがって、ファンド・オブ・ファンズによって得られる長所(付加価値)に見合うコストであると判断できる水準か、ゲートキーパーへのアウトソースを行わないで自らヘッジファンドポートフォリオ運営を行う場合と比べて合理的か、という観点から検討する必要がある。f:id:tenshoku66:20230517204348j:image

「ヘッジファンド・マネジャー」の報酬体系

ヘッジファンド」とは、様々な運用手法を駆使して相場の下落局面でもプラスの収益を目指すファンドです。投資するにはいくつかコストがかかり、運用益が出た場合に支払う成果報酬も広い意味でのコストになります。今回は、ヘッジファンドを購入する際の判断材料にもなる「ヘッジファンド・マネジャーの報酬体系」について解説します。

 

運用資産残高に応じて徴収される「管理報酬」は経費f:id:tenshoku66:20230517203834j:image

まず、伝統的投資と同様に、運用資産残高に基づいて徴収されるのが管理報酬(マネジメント・フィー)である。契約資産残高(NAV=ネット・アセット・バリュー)に対して、1~2%に設定されるのが一般的で、通常は運用会社経営の経常経費に当てられる。
 注意を要するのは、この管理報酬とは別に、アドミニストレーターやトラスティーカストディアン、法律事務所や監査法人に対する実費が支払われるということである。こうした経費は、ファンドの直接経費として支出される。
 マネジャーの立場からは、この管理報酬で必要最低限の会社経費をまかなうことができれば、事業経営は安定する。

「成功報酬」は運用益に対して何%徴収される?

伝統的投資と異質なのが運用成果に対する報酬として徴収されるのが成功報酬(パフォーマンス・フィー)であり、これがヘッジファンド・マネジャーの大きなインセンティブとなる。インセンティブ・フィーと呼ばれることもある。
 一般的には、定められた一定期間(1年単位が標準的)に計上された運用益(NAV増価分)に対して10~20%が徴収される。f:id:tenshoku66:20230517203853j:image

この体系は、ヘッジファンド創始者であるA・W・ジョーンズが初めて導入したものとされているが、正確には、1930年代にバリュー投資の父ベン・グラハムが成功報酬を利用していたことも知られている。
 個人富裕層を中心とする従来のヘッジファンド投資家は、有能な運用者固有のスキルと良好なパフォーマンスの対価として、投資家の利益とも一致するインセンティブに裏打ちされたこの体系を広く支持してきたのである。
 続いて、成功報酬の計算方法について解説する。

「ハイ・ウォーター・マーク方式」は全体の75%が採用

成功報酬を計算する際、何をもって成功と定義するのかは重要な論点だ。投資家が期待する目的やヘッジファンドの運用スタイルも異なるから、事前に決めておく必要がある。
 ハイ・ウォーター・マーク方式とは、ファンドのNAVが過去のピークを上回った部分についてのみ、成果として認識し、成功報酬を払う方式だ。逆にいえば、100のNAVで資金を預かったファンド・マネジャーが初年度で損失を出し、NAVは90に減少したとしよう。とすれば、2年目に利益を上げたとしても、100を超えた部分にのみ、初めて成功報酬が課されることになる。f:id:tenshoku66:20230517203916j:image

この方式は、ヘッジファンド業界で広く支持され、全体の75%以上で採用されているとの統計もある。ヘッジファンド・マネジャーにとって、成功報酬がリスク・テイクのインセンティブである以上、制約がない場合、より大きなリスクをとって大きなリターンを上げようとするインセンティブが働きやすい。
 たとえば、NAV100で預かった資金に対して、3ヵ月ごとに成功報酬が支払われるとしよう。3期連続で10%の損失が出続けてNAVが72.9になったとしても、同じ運用を続けて4期目に30%の利益を上げてNAVが94.77になると、マネジャーは利益の20%相当の4.374を受け取ってしまうことになる。
 わかりやすく言えば、投資家としては、当初預けた資産の元本を大きく割り込んでいるにもかかわらず、多額の成功報酬を支払うことになってしまう。
 そこで、このような問題を避けて、投資家とマネジャーの利害関係が矛盾しないように、投資家が獲得した利益をシェアする場合に限り、20%という魅力的な配分を行う方法がハイ・ウォーター・マークである。


「ハードル・レート方式」は特定の指標が基準となる

なかには、投資元本を上回っただけでは満足しない投資家も存在する。そこで、ある一定の期待レートを客観的に定義し、それを上回った部分に対して成功報酬を支払うとするのがハードル・レート方式である。
 ハードル・レートは、その設定が難しい。その多くは、マネジャーがベンチマークとして意識しているものを利用しており、たとえば、3ヵ月LIBOR政府短期証券のクーポン等、無リスク金利を使う場合が多い。
 逆に、ケースとしては多くないが、年4%など絶対金利をハードルとして設定する例もある。たとえば特定投資家の専用ファンドとして組成する場合には、マネジャーと投資家の協議によって、取り決めることが可能である。
 ハードル・レートを導入しているのは、ヘッジファンド全体で10%程度とみられるが、ハイ・ウォーター・マークとともに、ヘッジファンド業界固有の概念であるために、理解しておく必要がある。f:id:tenshoku66:20230517203940j:image

マネジャーは、自らの運用戦略に照らして適当かつインセンティブを極大化できる手法を導入すべきである。さらに、マネジャー側の努力だけではなく、投資家もマネジャーの能力を最大限に発揮し、期待に応えてもらうために効果的な仕組みとして成功報酬を理解するべきである。
 また、トラックレコードをチェックする場合、成功報酬を含めたコストを控除してあるのか、あるいは控除していないかにより、投資家にとってのネット・パフォーマンスは大きな違いがある。
 実際に計算をしてみると、1%〜20%の報酬で、年10%の利益を上げた場合、マネジャーの受け取る報酬は年2.8%、投資家の受け取るネット・リターンは7.2%となる。ファンドのマーケティング資料等に掲載してある実績が、こうしたコストを控除してあるのかどうか、十分確認する必要がある。

「運用者の利益」と「投資家の利益」のバランスが重要

これまで見てきたように、ヘッジファンドの事業モデルにとって、成功報酬のインパクトは大きい。直観的に理解できる通り、投資家にリターンをもたらしたときに大きな報酬を得ることのできる成功報酬は、投資家利益と運用者利益のベクトルを一致させる仕組みである。
 その一方、損失が生じた場合は投資家のみに帰属する点は、あたかもオプションのようなペイオフ(損益構造)を内包しており、公平でないとの見方もある。また、一度大きな累積ドローダウンを出してHWMから沈んでしまい、それを回復するのが困難な状況になると、運用者のモチベーションを阻喪する可能性がある。
 優秀な人材の流出を招いたり、極端な場合には投資家に負担を強いる形でファンドを清算したうえで、フラットなHWMから新ファンドを立ち上げなおすこともあるので、留意する必要がある。
 運用会社の経営という観点からみると、成功報酬にはもうひとつ隠れた意義がある。
 伝統的運用会社が成長するためには、管理報酬増大をもたらす運用資産拡大を目指すことになる。日本の運用業界を例にとるまでもなく、運用パフォーマンスよりも運用規模の拡大(ファンド・レイジング)が志向される傾向がある。“いかにリターンを上げるか”よりも“いかに資金を集めるか”というセル・サイドの観点が重視されがちだ。
 一方、成功報酬の営業が大きいヘッジファンドの場合、成功報酬の原資となるリターンを持続的に計上するには、運用規模を適切に管理する必要がある。運用キャパシティを超えるとプラス・リターンを上げにくくなるばかりか、大きなドローダウンを喫するリスクもあるため、運用者は自らの戦略に適した相応の運用規模を強く意識するようになる。
 運用パフォーマンスを維持し、投資家の資本を守るためのビルトイン・スタビライザーが成功報酬という仕組みなのである。

プロップトレーダーとファンドトレーダーの違い

プロップトレーダーとファンドトレーダーの違いf:id:tenshoku66:20230517013535j:image

主な違いは、トレード資本の出所とトレーダーへの支払い方法です。プロップファームのトレード資本は、1人もしくは少数の経験豊富なトレーダーによって提供されています。ヘッジファンドは、多くのプロの投資家や大企業から資金を集めています。

彼らが損失を出しているとき、プロップトレーダーはプロップファームのオーナーを心配するだけです。彼らがお金を失い、オーナーがそれらをサポートしている場合、彼らはトレードを続ける機会があります。通常、プロップファームのオーナーは過去に自分もトレードで成功してきた経験があるため、トレーダーの失敗には理解があり、忍耐強くもあります。

ヘッジファンドには通常多くの投資家がついており、結果に対して高い重圧がかかる可能性があります。ヘッジファンドのパフォーマンスが低い場合、投資家は別のファンドに移動しようとする可能性が高く、トレーダーはポジションを減らすか、トレードを停止する必要があります。

ヘッジファンドのトレーダーは通常、パフォーマンスに基づいて年に1回給与(年俸)とボーナスを受け取ります。対して、経験豊富なプロップトレーダーは給与(年俸)を得ることはめったにはなく、 通常は毎月受け取り、ボーナスの支払い時期も選択できます。

プロップトレーダーとして成功するために必要なスキル

プロップトレーダーとしてトレードをする場合、成功している個人トレーダーになるためのスキルと多くは同じです。すべてのトレーダーは、長期的に利益を上げるため、トレードする戦略とマーケットの専門家になる必要があります。

リスク管理ルールに従う能力はプロップトレーダーにとってとても重要です。プロップファームは、毎日のストップロス制限を設定しています。この制限が破られると解雇につながる可能性があります。個々のトレーダーはルールを破ってトレードを続けることができ、時には運良く大きな損失を利益に変えることもできます。

しかし、プロップファームはすべてのトレーダーのポジションと利益、損失を綿密に監視し、ルールに従っていることを確認するため、プロップトレーダーはギャンブルをしません。

忍耐はプロップトレーダーになったとき、なり始めの頃が重要です。プロップファームはプロップトレーダーがルールに従うことを望んでいるため、ほとんどのプロップトレーダーの最初は、小さなポジションのトレードから始めます。

各プロップトレーダーは大きなポジションでトレードをし早く大きな利益を得たいと思っているので、この状況はいらいらさせる可能性があります。プロップファームはトレーダー管理の長い経験を持っているため、リアル口座でトレードし始めた頃がトレーダーにとって最も難しく忍耐が必要な時期であることを知っています。

プロップトレーダーが利益を上げると、プロップファームも利益が得られるため、プロップトレーダーが一貫した利益を示せると、ポジションサイズを急速に増加していきます。

プロップトレーダーであることの利点

トレードを改善する方法について経験豊富なトレーダーからアドバイスを受けることができます。プロップファームは長期的な損失を防ぐ方法についてアドバイスを提供します。他の人があなたのトレードを見ていると、あなた自身のモチベーションも向上し、ルールに従うのに役立ちます。

プロップファームのためにトレードするとき、あなた自身の資金は常に安全です。他の人のお金でトレードすることでストレスレベルを下げ、トレードを改善することができます。プロップファームは、プロップトレーダーがリスク管理ルールに従うようにしますので、大きな損失の可能性は低くなります。

プロップファームに参加すると、他のトレーダーからも学びを得ることができます。他のトレーダーと話すことはあなたの利益を増やすための新しい戦略を見つけるのに役立ちます。また、チームの一員であると、他のトレーダーからサポートを受けられるため、トレードのストレスが軽減されます。

プロップトレーダーであることの欠点

他の誰かのお金をトレードするプレッシャーは、一部のトレーダーにとって難しい場合があります。彼らはプロップファームのルールに従うのが難しく、自分のお金をトレードする自由を楽しみます。

大きなポジションをトレードする前に、プロップファームとの信頼を構築するのに時間がかかります。ハイリスクで素早くお金を稼ぎたい人は、自分のお金をより良くトレードすることです。プロップファームはギャンブルを探しているトレーダーではなく一貫したトレーダーを探しています。

プロップトレーダーとは

プロップトレーダーとはf:id:tenshoku66:20230517013206j:image

プロップトレーダー はプロップファームで働く人のことです。
プロップトレーダー(Proprietary Trader)は会社の資金を使ってFX、先物や株のトレードをします。
プロップトレーダーはトレードの儲けを成果報酬として受け取ります。
成果報酬の割合はおおよそ50%、トレードの損失は負担しません。
プロップトレーダーは自分のお金をリスクにさらさず会社からトレードに必要なサポートを受けられるのでとても魅力的な職業です。

アメリカにはたくさんのプロップトレーダーがいますが、日本はまだこれからです。プロップトレーダーになるにはプロップファームに応募してトレードで定常的に利益をあげられることを証明します。証明ができるとプロップファームの一員となり、会社の口座を使ってトレードします。成果報酬は月末に成果に応じた割合で受け取ります。

2種類のプロップトレーダー

プロップトレーダーには、裁量プロップトレーダーとシステムプロップトレーダーの2つのタイプがあります。

①裁量プロップトレーダー

チャート、ニュース、センチメントを分析して、取引戦略を決定します。メンタルコントロールは、裁量プロップトレーダーにとって非常に重要であるため、計画を守り、大きな損失を避けます。彼らは毎日マーケットを綿密に分析するため、マーケットの変化に迅速に適応していきます。

システムプロップトレーダー

トレード戦略を見つけるため過去のチャートデータを用いてコンピューター分析をします。高いレベルのプログラミングスキルは、トレードで成功するために役立ちます。コンピューターは戦略を確実に実行するため、メンタルコントロールはそれほど重要ではありません。システムプロップトレーダーにとって難しいのは、マーケットが変化したときにいつトレード戦略を変更すべきかを知ることです。
最近、より多くのシステムプロップトレーダーがマーケットに参入しています。より多くのシステムプロップトレーダーがマーケットに入ると、価格は一層速く動き、裁量プロップトレーダーのトレードを難しくします。現在も、裁量プロップトレーダーにとって良い機会はありますが、時にはコンピュータートレーダーが反応し、マーケットが一方向に大きく動きすぎることもあります。f:id:tenshoku66:20230517013231j:image

プロップトレーダーとして利益を上げるまでの時間

経験豊富なプロップトレーダーは、プロップファームに参加すると、平均3〜6か月以内に収益を上げることが期待されます。 プロップトレーダーは通常短期戦略でトレードするため、プロップファームに参加した後、すぐにお金を稼ぐことができます。 しかしそれと同時に、経験豊富なトレーダーは 毎月利益を上げることを期待されていません。それは、マーケットが常に変化するものなので、それに順応する必要があるからです。
経験の浅いプロップトレーダーには、プロップファームで利益を上げるために通常6〜12ヶ月の時間が与えられます。 経験の浅いプロップトレーダーは最初は小さなポジションからトレードを開始するため、プロップファームのリスクは低くなります。 経験の浅いプロップトレーダーがより利益を上げるようになると、彼らはより大きなポジションをトレードすることができます。 プロップファームは、トレーダーを長期的な投資と見なし、忍耐強く彼らの成長を待ちます。

成功しているプロップトレーダーの割合

プロップトレーダーは、より多くのサポートを得るため、通常の個々のトレーダーよりも成功する可能性が高くなります。 個人トレーダーの70〜90%がお金を失うと言われています。 すべてのプロップトレーダーが成功しているわけではなく、統計もありませんが、プロップトレーダーの10〜30%がお金を失い、プロップファームでのトレードができなくなる可能性も秘めています。
プロップトレーダーは強力なリスク管理スキルを持っているため、個々のトレーダーよりも大きな損失を避けることができます。 プロップファームは常にプロップトレーダーのポジションを監視しており、プロップトレーダへよりお金を稼ぐアドバイスを提供する準備ができています。 こうして、プロップファームチームの一員になることはトレーダーが成功する可能性をより高かめます。

プロップ トレーダー 募集

Turn Tradingは会社資金でトレードをするトレーダーを探しています。
Turn Tradingのプロップトレーダーになるには、先ず、デモ口座を使ったGYMコースに入会してトレードのトレーニングを積みます。
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プロップトレーダー 年収

プロップトレーダーには普通のサラリーマンのような定額の月額報酬はありません。
会社資金を使ったトレードで稼いだお金の分配を成功報酬として毎月受け取ります。
分配の割合は40~80%で、プロップトレーダーの能力と経験で決定されます。

最新アクティビスト事例5選

アクティビストによって仕掛けられたTOBとそれに対する企業の対応、その後のTOBの成否など、実際にアクティビストが行った株主行動の具体例を見ていきましょう。f:id:tenshoku66:20230516031006j:image

旧村上系ファンド事例①:シティインデックスイレブンスによる東芝機械のTOB(2020年1月)
【概要】

TOB実施アクティビスト:シティインデックスイレブンス
TOB対象企業:東芝機械
実施期間:2020年1月21日~2020年3月4日
目的:株主価値の向上
ファンドによる株式保有割合:12.75%
結果:TOB撤回により不成立
2020年1月21日、旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスは、東証1部上場の工作機械大手、東芝機械に対する株式公開買付け(TOB)を実施すると発表しました。

TOBを実施するのは旧村上ファンド系3社でした。同3社は当時、東芝機械株の12.75%を保有しており、最大259億円を投じ、東芝機械株の43.82%の取得を目指しました。TOBは1月21日~3月4日までで、価格は1株3,456円、追加の買い付け株数が14.5%に満たない場合は成立しない、という条件でした。

この敵対的TOBに対し東芝機械は同日、他の既存株主に新株予約権を割り当て、買収者の保有比率を引き下げる買収防衛策の手続きに入りました。これに対しシティ側は、TOBの狙いを「株主価値の向上と自己資本利益率ROE)向上を実現するため」とし、東芝機械の対応を「経営陣の保身」と批判しました。

2020年3月27日に開かれた臨時株主総会において新株予約権の発行による買収防衛策が可決され、防衛策が承認された場合はTOBを直ちに撤回すると表明していた旧村上ファンド側はTOBを撤回しました。

村上ファンド系事例②:島忠TOBにおけるシティインデックスイレブンスの存在感(2020年10月)
【概要】

TOB実施アクティビスト:DCMホールディングスニトリ
TOB対象企業:島忠
実施期間:2020年10月2日~2020年11月13日
結果:DCMによる買収は不成立、ニトリによる買収が成立
同じく旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスが関与したTOBとして、島忠に対するTOBが挙げられます。

このTOBを仕掛けたのはDCMホールディングスおよびニトリであり、シティインデックスイレブンスはTOBを仕掛けた訳ではありませんが、島忠の株主としてTOBの展開を左右する存在感を発揮しました。この事例は、アクティビストを株主として持つ企業を巡るTOBの場合に起こり得る事態として参考になります。

2020年10月2日、ホームセンター大手のDCMホールディングスが同じくホームセンター大手、島忠に対し1株4200円でTOBを実施すると発表しました。

シティインデックスイレブンスは2020年10月17日時点で島忠株を5.75%保有していましたが、DCMによる買い付けには応じず、20日までに8.38%まで買い増すことで、より高い買取価格を追求する構えを見せました。

DCMによる買い付けが進む中、2020年10月29日にニトリが1株5500円を設定し、DCMの設定した価格を上回る価格でのTOBを発表、DCMとニトリによるTOB合戦となりました。

最終的には2020年11月13日に島忠がニトリによる買収案に合意し、TOBが成立しました。そのため、島忠株を保有していたシティインデックスイレブンスは引き上げた株価で保有株式を売却し利益を得る結果となりました。

村上ファンド系事例③:廣済堂MBOに対抗、レノによる対抗TOB(2019年3月)
【概要】

TOB実施アクティビスト:レノ
TOB対象企業:廣済堂
実施期間:2019年3月22日~2019年4月18日
目的:株主価値の向上
ファンドによる株式保有割合:13.47%
結果:不成立
アクティビストファンドが投資先の企業経営陣によるMBO(Managing Buyout)に対抗しTOBを仕掛けたという事例がレノによる廣済堂TOBの事例です。

MBO(Managing Buyout)とは?
経営陣による買収を指す。企業の経営陣が既存株主から株式を買い取ることで経営権を取得することを目的とする。

2019年1月18日、東証1部上場の印刷業中堅企業、廣済堂の経営陣が米投資ファンドベインキャピタルの支援を受け、非公開化を目的としたMBO(Managing Buyout)を開始しました。

それに対し、 旧村上ファンド系のレノは株式の買い付けを行い、株価を引き上げる行動に出ました。その結果、TOBは期間が延長され、買付価格の引き上げが決定されました。

それでもなお、レノ側は「既存株主に対して十分な株式価値向上の機会が提供されていない」と指摘し、 旧村上ファンド系レノのパートナー企業である南青山不動産が対抗TOBを実施しました。

当時、レノおよび南青山不動産は廣済堂株式の13.47%を保有しており、対抗TOBの買付価格は、750円で、MBOの買付価格(610円、その後700円に引き上げ)と比較して50円高く設定しました。

しかし、最終的には買付株数が予定数に達せず、TOBは不成立に終わりました。

グローバルヘッジファンド事例①:香港系投資会社オアシス・マネジメントによる東京ドームTOB(2020年12月)
【概要】

TOB実施アクティビスト:オアシス・マネジメント
TOB対象企業:東京ドーム
実施期間:2020年12月17日~11月27日
目的:株主価値の向上
ファンドによる株式保有割合:9.61%
結果:三井不動産によるTOBが成立(オアシス・マネジメントによるTOBは不成立)
近年では、海外のアクティビストが日本で存在感を高めてきています。最近の事例では、香港系投資会社オアシス・マネジメントによる東京ドームTOBが挙げられます。

東京ドームが2020年12月17日に都内で開いた臨時株主総会で、 大株主のオアシス・マネジメントが長岡勤社長らの解任を求めた株主提案が否決されました。

オアシスは2020年1月時点で、東京ドーム株の9.61%を保有しており、経営陣が非効率な運営を続け、オアシスが示す業務改善策についても対話を拒否していると主張しました。それに対し、東京ドーム側は、長岡氏ら3人は企業価値の向上などに貢献してきた経験や実績があり、解任した場合は価値を著しく損なうと反論しました。

上記に伴い、 ホワイトナイトとして三井不動産が11月30日から完全子会社化に向けたTOBを実施し、オアシスも応募する意向を示しました。

三井不動産は2021年1月19日、東京ドームに対するTOBに84.8%分の応募があり、TOBが成立したと発表しました。三井不動産は手続きを経て東京ドームを完全子会社化した後、20%を読売新聞グループ本社に売却、将来的な再開発を視野に、東京ドーム一帯の施設や運営に参画し集客力を高めるとしました。

グローバルヘッジファンド事例②:米投資ファンドサーベラス・グループによる西武ホールディングスTOB(2005年10月)
【概要】

TOB実施アクティビストファンド:サーベラス・グループ
TOB対象企業:西武ホールディングス
実施期間:2013年3月11日~2013年4月23日
目的:再上場を巡る意見の対立
ファンドによる株式保有割合:32.4%
結果:不成立
最近の事例とともに、さらに時期を遡った過去の事例をご紹介します。

2004年、西武HDの前身の西武鉄道有価証券報告書の虚偽記載で上場廃止に追い込まれた。その翌年、西武に支援の手をさしのべたのが米投資ファンドサーベラス・グループ(以下、サーベラス)でした。サーベラスは2006年に約1000億円を出資、株式の約30%を保有する大株主となりました。

西武鉄道サーベラスは当初、ホテル事業の支援など経営面でも協力していたが、再上場の仕方などを巡ってすれ違いが生じ始めます。

2013年にはサーベラスが西武HDに対しTOB(株式公開買付け)を実施しました。その結果、目標には届かなかったものの、サーベラスによる株式保有比率は35.45%に高まり、サーベラスは株主としての影響力を高めた結果、西武HDに対しプロ野球球団の売却やローカル線の廃線などを求めました。

その後、西武HDの業績が回復するとともに対立は次第に弱まり、2014年に西武HDは再上場を果たします。一方、サーベラスは段階的に保有株を売却し、2017年8月にサーベラス持分の西武HD株を全株売却することで長期保有に終止符を打りました。

一般的に、ファンドは投資を始めてから3~5年前後で株式を売却するケースが多いですが、この案件は 投資期間が特に長いのが特徴です。